院長の仕事は、日々意思決定の連続です。
その意思決定をスムーズにしていくことが次のステージに進むためには必要です。
診療が忙しくなれば、院長一人ですべてのことを意思決定していくことは難しくなります。そのため、スタッフに仕事を任せる、つまり意思決定をスタッフに任せていきます。
仕事を任せる際には、「◯◯な場合は相談してください」、とスタッフに意思決定の基準を提示されていると思います。スタッフに仕事を任せる際に基準を提示されているように、自分自身で意思決定する際にも基準を設けておけばスムーズに意思決定をすることができます。
経営に関する基準は、「数値基準」がベースになります。この数値基準を持っていることで、意思決定の質が高まり、またスピード感もでてきます。
内閣府が発表している景気動向指数は、先行指標、一致指標、遅行指標の3つに分類されています。
例えば、先行指標である求人数が増えると、一致指標である有効求人倍率が数ヶ月後に上がり、遅行指標である完全失業率がその数ヶ月後に上がる、という流れです。求人数を見ておけば、有効求人倍率も完全失業率も予測できるわけです。
矯正歯科医院経営の場合、先行指標が初診相談数、一致指標が成約率、遅行指標が入金額(財務諸表データ)と考えることができます。
一般的に、初診相談数が増えると、翌月の契約数が増え、翌々月の入金が増える、という流れになります。入金額が少なくて、バタバタするのでは遅いわけです。
売上を構成する要素の数値管理
1. 初診相談数
矯正歯科医院経営の先行指標である初診相談数。
初診相談数を記録されているクリニックがほとんどだと思います。しかし、ただ記録するだけでは、次のアクションに結びつかず、もったいない状態です。
Step.1 「来院経路を把握する」
初診相談の内訳まで管理していくことで、次のアクションに結びつきやすくなります。矯正歯科医院の初診相談の来院経路は、
① ホームページ
② 患者・家族紹介
③ 一般歯科紹介
④ 看板
⑤ 通りがかり
⑥ 広告
に分類することができます。来院経路別に初診相談数を管理していきます。
Step.2 「基準を作る」
過去データを集計し、来院経路別の基準を作る準備をします。例えば、過去1年間のデータを集計し、月平均の来院内訳がホームページ10件、患者・家族紹介5件、一般歯科紹介5件だったとします。
クリニックとして、ホームページをリニューアルしてさらにホームページからの初診相談数を増やしていく計画であれば、基準を高く設定します。同じように他の来院経路も計画に合わせて基準を設定していきます。この基準をクリアしていればOK、クリアしていなければNGとシンプルにしておきます。
また、広告費の基準も設けておきます。例えば、リスティング広告を月額20万円使って、初診相談が20件であれば、1件の初診獲得広告単価は1万円になります。1万円を超えるとNGとシンプルに基準を設けておきます。
Step.3 「基準をもとにアクションを考える」
毎月、来院経路及び初診獲得広告単価の集計を行い、基準に達していない部分に関して、アクションプランを考えていきます。
例えば、ホームページからの初診相談数が基準に達していない場合は、アクセス数、滞在時間、各ページのアクセス状況などさらに詳細を分析していきます。ここまで分析すると原因が浮き彫りになることが多く、アクションプランを考えやすくなります。
Step.4 「リビュー」
アクションプランを実行したら、必ずBefore→Afterを確認するようにします。効果があった施策であれば、継続すれば良いですし、もし効果がなければ、違う施策を考え、実行していきます。
Step.3とStep.4を繰り返すことで、初診相談数は安定してきます。
2. 成約率
矯正歯科医院経営の一致指標である成約率。成約率は、契約数/初診相談数になります。
成約率が高いクリニックの場合は、数字だけの管理でも問題ありません。しかし、成約率が低い場合には、患者台帳を作成し、患者毎の一覧を作成し、課題を探っていきます。
Step.1 「患者台帳を作る」
患者台帳には、患者ステータス、来院経路、予約日、初診相談日、初診相談結果(検査予約、返事待ち、リコール)、検査予約日、検査来院日を設けます。患者台帳への記載は、まとめてではなく、アクションがあった日に記載するようにしていきます。
Step.2 「基準を作る」
成約率も初診相談数と同じように基準を設けます。例えば、基準を50%とした場合、50%クリアしていればOK、クリアしていなければNGとします。
Step.3 「集計する」
月に1回は患者台帳を集計していきます。9月中に初診相談を受けた方のうち何人が検査に進んだか、を把握します。9月の初診相談で10月になってから検査予約をされる方もいらっしゃいますので、遡って数字をアップデートしていきます。このように管理することで、9月に実施した初診相談の内容をリビューすることができます。
Step.4 「アクション」
例えば、成人の成約率は基準をクリアしているが、子どもの成約率が基準をクリアできなかったとします。この場合、子どもへの初診相談内容の見直しをしていきます。この改善を繰り返していくことで、成約率は必ず上がってきます。
財務諸表での数値管理
試算表(財務諸表)が毎月税理士さんから送られてくると思います。しかし、詳しく内容を確認されている先生は少ないのではないでしょうか?なぜなら、試算表は遅行指標であり、結果だからです。結果を見たところで、売上や利益が変わるわけではありませんので、当然のことだと思います。
しかし、現金の推移や経費に関しては、試算表で確認できますので、ポイントを絞って確認して頂くことをおすすめします。
1. 現金
試算表で見て頂きたい一つ目の項目は、現金になります。現金の残高だけではなく、現金の推移を確認します。現金さえ増えていれば、経営的には問題ありません。
毎月の資金繰りは問題なくても、賞与の支払い、労働保険の支払い、税金の支払い月に資金繰りが苦しくなることがありますので、どれくらいストックしておけばよいか、把握しておく必要があります。
2. 経費
一般的に経費は固定費と変動費に分類することができます。しかし、ほとんどの会計ソフトは、売上原価(材料費と技工費)のみを変動費としてプログラムされており、違う視点で確認する必要があります。
「コントロールできない経費」と「コントロールできる経費」
コントロールできない経費を固定費、コントロールできる経費を変動費として捉えます。例えば、家賃や光熱費、減価償却費等が固定費に該当します。一方、材料費、技工費、人件費、広告費はコントロールできる経費ですので、変動費として捉えます。
金額ではなく比率(パーセンテージ)
コントロールできる経費を変動費として捉えていきますので、金額ではなく、売上に対しての比率(パーセンテージ)で確認していきます。
① 広告費
初診相談数の数値管理で1件の初診相談獲得広告単価の管理とともに、売上に対しての広告比率を確認します。広告費の金額が高くなっていても、売上に対する比率が変わっていなければ問題ありません。
また、売上に対する広告比率が安定している状況で、もっと売上を伸ばしたければ、広告費をさらに投下することで、売上・利益ともに増えていきます。
② 人件費
人件費もコントロールできる経費、変動費になります。金額ではなく、売上に対しての比率を確認します。人件比率が高くなっている場合は、生産性が落ちていますので、売上を上げていくために力を注いでいく必要があります。
本来は、人件比率はスタッフを増員する際に使う指標になります。
③ 材料費・技工費
インビザラインやインコグニト、ハーモニーなどの原価をコントロールすることは難しいですが、その他の材料費・技工費に関しては、コントロールすることが可能です。
特に材料の発注をスタッフに任せている場合、売上に対して、材料費が何パーセントになっているか、確認が必要です。